ヘルマンスキー・パドラック症候群

ヘルマンスキー・パドラック症候群(Hermansky-Pudlak Syndrome;HPS)を理解するために・・・〔暫定版〕

千葉大学大学院医学研究院公衆衛生学
千葉大学医学部附属病院遺伝子診療部(遺伝カウンセリング室)
千葉県こども病院遺伝科(非常勤)
小児科専門医・臨床遺伝専門医(指導医)
石井拓磨

1.この文書を作成するに至った理由(目的)

数年前から縁あってアルビノ(アルビニズム・白皮症・旧白子症)の方々を支援することになりましたが、当然の流れとしてその仲間の病気の1つであるヘルマンスキー・パドラック症候群(Hermansky-Pudlak Syndrome;以下HPS)の方々ともお会いして、様々なご相談をお受けすることになりました。

そのような中で、「症状的には普通のアルビノであるにも関わらず、不正確な情報に振り回され、特に症状の強いHPSを強く心配されているご本人」「遺伝子診断で症状の強いHPSの可能性が高いとされて大変に悩んでいるご本人」「医師に勧められるままにまだ幼い児の遺伝子診断を実施し、症状の強いHPSの可能性が高いとされて呆然としているご両親」「適切な医療の提供を受けられないご本人やご両親」などから直接・間接にご相談をお受けする機会をいただき、それらの方々のご要望に添う形で、この文書を作成することになりました。
したがって、この文書の目的は、「医療関係者ではない普通の方々にわかりやすくHPSについて解説し、正しい理解を支援すること」「遺伝子診断でわかることとわからないこと(できることとできないこと)などを正しく理解していただき、遺伝子診断を実施するべきかどうかを慎重に考えていただくこと」にあります。

2.お読みいただく際の注意点

1)HPSはかなり複雑な病気なので、遺伝医学的に厳密ではないことを承知の上で例外的なことを省くなど、「医療関係者ではない普通の方々に理解しやすいこと」を重視して書かれています。そのため、従来にない「症状の薄いHPS」「症状の弱いHPS」「症状の強いHPS」という分類方法を導入させていただきました。

2)症状の強いHPSの「特に肺線維症の現実的かつ確実な治療方法や予防方法」が確立されていないことを前提として書かれています。それらの方法が確立された場合には考え方や対応(特に遺伝子診断に対して)が変化しますのでご承知おき下さい。

3)「小児期から予防すべきでかつ予防方法が確立している症状」が認められないことを前提として書かれています。そのような症状が発見された場合には考え方や対応(特に遺伝子診断に対して)が変化しますのでご承知おき下さい。

4)「遺伝子診断の結果に基づいた総合的かつ継続的な医療の提供を前提とした、現在及び将来の当事者に役立つ臨床研究」の実施は、歓迎こそすれ反対するものではありません。単に遺伝子診断の実施に反対する目的で書かれたものではないことを正しくご理解下さい。

3.HPSの分類と普通のアルビノや眼白皮症との関係など

眼・皮膚・毛髪の基本的な3つの症状の強さとHPS特有の症状(出血傾向や肺線維症など)の強さとは、それなりに相関する(単純に色素が少ないほどHPSの可能性が高いというわけではありません)ものと考えられています。また、出血傾向以外のHPS特有の症状(肺線維症など)は、成人期になってから、30代ないし40代までに出現してくるものとされています。
したがって、基本的な3つの症状がさほど強くない場合や40代を過ぎても出血傾向以外のHPS特有の症状(肺線維症など)が認められない場合、症状の強いHPSを特別に心配する必要はありません。

注1)出血傾向:些細なことで出血しやすく出血するとなかなか止まらないこと(血小板が上手に働かず、かさぶたが形成されにくいため)。女性では月経時の出血が増加することにより貧血を生じることもある。ただし、元来、幼児は鼻血を出しやすく(特に発熱時など/鼻をこすったり指を入れたりするため/鼻水と混じるため量が多く感じる/15分以内に止まる鼻血は正常/30分以上止まらない鼻血は注意)、転ぶなどしてすねをぶつけて皮下出血(いわゆる青たん)を生じることも多いので、出血傾向の有無の判断は慎重に行う必要がある。通常の血液検査は出血傾向の有無を判断する決め手にならない(正確に判断するために電子顕微鏡による検査を必要とすることもある)。各種の手術(抜歯を含む)や検査(及び女性は出産)などの際に出血を防止する薬剤の使用(内服・点滴・他)や血小板輸血を考慮するが、種々の副作用の心配もあるため、必要かどうかは出血傾向の強さ(非常に個人差がある)や出血する可能性の強さなどを考え医師と相談して決める必要がある。年齢とともに重症化することはない。
注2)肺線維症:肺が徐々に固くなり、息切れが生じ呼吸が難しくなること。肺の組織に特有の物質が溜まることが原因。進行を遅らせる薬が試されている。

なお、国内外から様々な報告がありますが(日本人のHPSはアルビノ全体の3割程度を占めると推定する報告もあります)、対象集団の特徴を十分考慮する必要がありますし(大学病院の受診者は一般に症状が強いことが多いものと想像されます)、人種差も考慮しなければならないため、海外の報告(特に症状の強いHPSが多いプエルトリコ人の報告)をそのまま日本人に当てはめることもできません。

1)症状の薄いHPS
普通のアルビノの方々が持っている基本的な3つの症状である「眼症状(視力低下や羞明-まぶしがること-)」「皮膚症状(白色皮膚→日光による紅斑を来しやすい)」「毛髪の症状(白色~灰色~金色~茶色)」または普通の眼白皮症の方々が持っている「眼症状(視力低下や羞明-まぶしがること-)」以外に問題となる(生活上の注意や治療などを必要とする)レベルのHPS特有の症状(特に出血傾向)を認めないHPSです。
つまり、普通のアルビノや眼白皮症と症状が同じなので、医療・教育・生活上の注意点は変わりません。
アルビノの一部や眼白皮症のほんの一部と推定されます。
原因となる遺伝子がどれであっても常染色体劣性遺伝形式(かX連鎖劣性遺伝形式)をとるため、次のお子さんが同じになる可能性も1/4で変わりませんし、出生前あるいは着床前診断も現実的に不要なので、敢えて遺伝子診断を実施して普通のアルビノや眼白皮症と区別しなければならない理由は特別な場合を除いてありません。
なお、何らかの理由で必要な場合、X連鎖劣性遺伝形式をとる眼白皮症の多くは母親が保因者であるかどうかを眼科的検査を用いて診断することによって区別することが可能です(もちろん、突然変異である可能性もありますし、眼白皮症の中には常染色体劣性遺伝形式をとるものが一部にあるともされています)。

2)症状の弱いHPS
普通のアルビノの方々が持っている基本的な3つの症状または普通の眼白皮症の方々が持っている眼症状に加え、問題となる(生活上の注意や治療などを必要とする)レベルのHPSの共通症状である出血傾向を認めるHPSです。
つまり、出血傾向に対する対応が必要となりますが、症状の強いHPS特有の症状(肺線維症など)の心配はあまりありません。
アルビノの1割程度や眼白皮症のごく一部と推定されます。
HPSの診断は出血傾向に基づき臨床的に可能ですし、次のお子さんが同じになる可能性や出生前あるいは着床前診断に関する状況も症状の薄いHPSと同様ですので、敢えて遺伝子診断を実施しなければならない理由は特別な場合を除いてありません。
成人期になってから40代を越えるまで、念のため肺機能検査などによる定期健診を続けることをお勧めします。

3)症状の強いHPS
普通のアルビノの方々が持っている基本的な3つの症状または普通の眼白皮症の方々が持っている眼症状に加え、問題となる(生活上の注意や治療などを必要とする)レベルのHPSの共通症状である出血傾向を認め、さらには肺線維症などにも気をつける必要があるかも知れないHPSです。
確かに、現状では現実的かつ確実な治療方法や予防方法は確立されておりませんが、肺線維症の進行を遅らせる薬が試されていますし腸や腎臓や心臓などの症状に対する治療も試みられています
症状の弱いHPSの半数程度や眼白皮症のごくごく一部と推定されます。
HPSの診断は出血傾向に基づき臨床的に可能ですし、次のお子さんが同じになる可能性や出生前あるいは着床前診断に関する状況も症状の薄いHPSや症状の弱いHPSと同様ですので、敢えて遺伝子診断を実施しなければならない理由は特別な場合を除いてありません。
さらに、症状の強いHPSの診断は特有の症状(肺線維症など)に基づき臨床的に可能ですので(早期発見・早期治療が望まれますので、成人期になってから40代を越えるまで、肺機能検査などによる定期健診を続けることをお勧めします)、やはり、遺伝子診断の実施は必須ではありません。
加えて、症状の強いHPS特有の症状(肺線維症など)がない時期(特に乳幼児期)での発症前診断の実施には、後述のように極めて慎重な姿勢が求められています。

4.類似点のある病気など(比較的に頻度の高いもの)との区別(鑑別診断)

1)フェニルケトン尿症(PKU)
先天代謝異常症(生まれつきある種の物質の変換が体内でできない病気)の1つで、全身(眼・皮膚・毛髪)の色素が低下することがあります。無治療の場合、知的な発達の遅れが必発ですので、少なくとも生後半年を過ぎて正常に発達していれば心配なく、何よりも生後数日で実施する新生児マス・スクリーニング検査(足の裏から採血します)の結果が正常であれば心配ありません。

2)チェディアック・東(ひがし)症候群(CHS)
全身(眼・皮膚・毛髪)の色素が低下する病気ですが、免疫機能が低下するため、乳幼児期から重症な肺炎や原因不明の発熱などにより入院と退院を頻繁に繰り返すことになります。普通程度(風邪を引きやすい/中耳炎になりやすい/普通の肺炎や気管支炎などで数回入院した/など)以上に病気にかかりやすくなければ心配ありません。

3)ワールデンブルグ症候群(WS)
多くの遺伝子が原因となっているため多数の型に細分類されていますが、頭髪の色素低下が部分的で(前頭部が多い)、基本的には難聴をともないます。各種の検査で聴力に問題がないあるいは明らかに聞こえているのであれば心配ありません。

4)普通のアルビノまたは眼白皮症と出血傾向をともなう別な病気との偶然の合併
先天的あるいは後天的な出血傾向をともなう別な病気のほとんどは、通常の血液検査でそれぞれに特徴的な結果が認められますので診断(区別)が可能です。

5)白色人種系の先祖の影響
皮膚や毛髪の色素が少なくなることはあっても、眼底(網膜)の色素は低下しませんし、黄斑(網膜中心部の視力に大切な部分)の形成にも影響しませんので、眼科的診察(眼底検査など)で診断(区別)が可能です。

5.遺伝子診断でわかることとわからないこと(できることとできないこと)など

1)「どの遺伝子が原因で遺伝学的な分類としては何型なのか(原因となった遺伝子によって1~8型に分類されています)」がわかるかも知れませんが、「遺伝子診断の完璧な方法が確立していない」「原因となっている全ての遺伝子が判明しているわけではない」ので、わからないことも少なからずありますし、「遺伝子に変化(変異)らしきものはあるがどのように解釈すべきかわからない」といったことも少なからずあります。すなわち、少なくとも「HPS(特に1型と4型)ではない」ということを証明する検査ではないのです。

2)「遺伝子診断というものは複雑で、多数の解析方法を組み合わせて実施・判断する必要がある」「HPSの場合、多数の遺伝子を同時に解析する必要がある」ので、遺伝子診断の結果が報告されるまで数ヶ月~半年程度、場合によっては数年程度の時間がかかります。例え出生直後に結果を知りたいと考えたとしても、すぐに結果がわかるわけではありません。

3)1型と4型に比較的に症状の強いHPSが多いとはされておりますが、症状の個人差は大きく、例え遺伝子の変化の状態(変異)が同じであっても症状が同じと限らないため(兄弟姉妹でも違います)、遺伝子診断の結果のみで将来を明確に予測することは世界中の誰にもできません。

4)現在は既述のような状況にありますので(2の2と3参照)、症状の強いHPS特有の症状(肺線維症など)がない時期(特に乳幼児期)での遺伝子診断は、国内の医師や研究者に遵守することが求められている「遺伝学的検査に関するガイドライン(http://www.jshg.jp/resources/data/10academies.pdf;平成15年8月;遺伝医学関連10学会)」において「発症前診断」に分類されるものです。したがって、その実施にあたっては極めて慎重な姿勢が求められています。成人の場合、「十分な情報提供を受けた上で納得し希望しているとき」に限って実施される可能性がありますが、乳幼児を含む未成年者の場合、「本人の知る権利と知らないでいる権利」を擁護しなければならないため、ご両親が心配する気持ちもわからないではないのですが、原則として実施すべきではないとされています。

5)HPSの場合、例外は皆無ではないものの、患者のご両親は原則としていわゆる保因者(原因となる遺伝子の変異を片方のみ受け継いでいる人)ですので、敢えて保因者診断を実施する必要がありません。その他の血縁者が保因者である可能性はそれぞれにありますが、血族婚のような特別な場合を除いて特別に心配する必要はありませんので、やはり保因者診断は原則として不要です。

この遺伝子の変異は基本的に先祖代々延々と受け継がれてきたものですが、あまりにも昔から受け継がれてきたものですので「どこそこの特定の家系の問題」などではなく人類全体が共有しているごく普通のもので、決して少なくない人々がこの遺伝子の変異を片方受け継いでいる保因者なのです。因みに、原因となる遺伝子を区別せずに保因者の頻度を算出すると100~150人に1人程度になります。つまり保因者とは珍しくも何ともないごく普通の人なのです。

6)様々な意見があり、また個別の状況も十分に考慮しなければなりませんが、一般にHPSは「出生前診断や着床前診断の対象となる病気ではない」と考えられています。したがって、国内で出生前診断や着床前診断を実施している施設はありません。

7)既述のガイドラインを見るまでもなく、「遺伝子診断の結果に基づいた総合的かつ継続的な医療の提供」は「遺伝子診断の実施における大前提」であると同時に「医師の基本的な責務の1つ」です。既に遺伝子診断を受けた方々にも、当然にそのような医療の提供を受ける権利があります。遠慮なく主治医に希望を伝えて下さい(同意書などの書類へのサインの有無には無関係です)。主治医に難しい場合は「他の適切な医師や医療施設を紹介する責任」があることは言うまでもありません。

以上をよくご理解の上、個別の事情も加味し、遺伝子診断を実施するべきかどうかを慎重にご検討下さい。
少なくとも「急いで遺伝子診断を実施しなければならない理由」は全くありません。

この文書が、少しでもHPS(及びその仲間の病気)の患者さんとそのご家族の方々のお役に立つことを祈っています。

連絡先:石井拓磨
 川口工業総合病院 小児科部長
  〒332-0031 埼玉県川口市青木1-18-15
 千葉県こども病院遺伝科(非常勤;第1・3・5木曜日)
 千葉大学看護学部(非常勤講師)
 東邦大学佐倉看護専門学校(非常勤講師)
  全ての遺伝関連疾患に関する診療・療育・遺伝カウンセリング
  全てのサポートグループに対する支援
  障害児(者)の将来を担う全ての人材に対する教育
 ※お近くの適切な専門医療機関を御紹介することも可能です。

※2014年9月現在の情報に更新しました。

注)ご要望に応じて急ぎ作成したため、不適切なところがあるかも知れません。修正致しますのでお知らせ下さい。
2009.7.15

追記

1)
インターネットで検索し、死亡例や剖検例の医学論文ばかりが出てきて悲しんでおられる方も少なくないのではないでしょうか。
これは、当然ですが、「症状の強いHPSほど診断されやすいために、医学論文としての報告が多い」「症状の弱い(または薄い)HPSは診断されにくいために、医学論文としての報告が少ない」ということにすぎません。
出血傾向は正しく理解することにより対処が可能ですし(少なくとも亡くなるようなことは避けられます)、全てのHPS患者が、肺線維症によって早期に亡くなるわけでもありません。
合わせて正しくご理解いただけますよう・・・。

2)
誤解を恐れず「ざっくり」言えば、遺伝子診断の結果に関わらず「出血傾向があればHPSで、なければ普通のアルビノ(や眼白皮症)」と診断して構わないのです。

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