アルビノと見えにくさについて

【文責】相羽大輔 愛知教育大学特別支援教育講座

1.はじめに
このコーナーでは、アルビノの方の見えにくさについて解説いたします。本コーナーの内容を読まれる前に、いくつか事前にご理解いただきたいことがありますので、以下に記させていただきます。
※本コーナーの解説は、主として眼皮膚白皮症を想定し、一般的と考えられる見えにくさを扱っています。
※ここに記載されていない見えにくさの問題につきましては、当団体へ直接お問い合わせください。当団体で把握している情報を可能な限り提供をさせていただきます。
※ここに書かれた掲載内容は不定期に変更されます。

2.アルビノの人にはどんな見えにくさがあるの?
アルビノの人には、羞明(まぶしさ)、低視力の他、眼球振とう[がんきゅうしんとう](無意識に目が揺れる症状)という3つの見えにくさがあります。このため、一般的にはロービジョン(学校では弱視)と呼ばれており、特別支援教育(主に、視覚障害教育)の対象になります。ここでは、それぞれの見えにくさについてご説明します。

(1)羞明(まぶしさ)について
アルビノ(albino)という言葉は、ラテン語で「白い」という意味の「albus」という言葉に由来します。アルビノの人の髪の毛や肌が明るい色になるのは、体内にメラニン色素がない(あるいは、少ない)ためです。このメラニン色素の形成に関わる細胞は、皮膚や毛髪だけではなく、耳(内耳)や眼(ぶどう膜・網膜色素上皮[もうまくしきそじょうひ])にも存在しています。このため、アルビノの人の眼は、日本人の眼の色(黒や茶色)とはかけ離れた灰青色等になります。これがアルビノの人が感じる極端なまぶしさに関係してきます。もし、眼の色が黒や茶色であれば、眼球内部は暗室状態になります。例えるなら、真っ暗な部屋でプロジェクターの映像がスクリーンにはっきり投影された状態です。しかし、色素がないアルビノの人の眼は、眼に入る光を調整できず、眼球内部は暗幕不良状態になります。これは明るい部屋でプロジェクターからスクリーンに投影された映像が白く薄くまぶしく見える様子に似ています(図1)。また、背景が明るいところでは常に逆光のように見えます(図2)。日常生活では、照明や日光が反射しやすいホワイトボード等を見るときに背景がまぶしすぎて文字が読めない、太陽の方向(西日等)が背景にあるととてもまぶしい等の声があります。
(注)ぶどう膜:虹彩[こうさい]、毛様体[もうようたい]、脈絡膜[みゃくらくまく]を合わせたもので、その色がぶどう色であることから命名されています。
(注)黒目:ぶどう膜の虹彩の色が黒であることに由来しています。

       図1 暗幕不良状態
     図2 まぶしくて読めない状態

(2)低視力について
「メラニン色素がないと、まぶしさを感じるのは理解できるけど、どうして低視力になるの?」と疑問に思う当事者家族は多いです。一言でいえば、低視力になる原因は眼球内部の構造上の問題にあります。医学書等の専門書では、アルビノの特徴として、「黄斑低形成」[おうはんていけいせい]という言葉を目にします。この「黄斑部」[おうはんぶ]とは、瞳のちょうど反対側で、網膜の中心部分である「中心窩」[ちゅうしんか]とその周辺部分のことです(図3:工事中)。生まれたばかりの赤ちゃんの眼球内は綺麗な円形をしていますが、生後1歳になる頃には、「黄斑部」が発達して凹みを作ります。この凹みが確認されにくい状態を専門的には「黄斑低形成」と呼んでいます。
では、なぜ、「黄斑低形成」になると視力が下がってしまうのでしょうか。それは視細胞のうち、視力や色覚に関与する「錐体」[すいたい]と呼ばれる細胞が「黄斑部」の「中心窩」に集中していることと関係があります。「黄斑部」の「中心窩」付近は、網膜の中で視力が最も高くでる部分です。
もし、「黄斑部」が正しく形成できていたら、眼球内に入った光が錐体へ直に届くことによって、錐体から視神経へと効率よく情報が伝達されますが、アルビノの人はそうではありません。錐体細胞が正常に機能しているのにも関わらず、他の細胞が肥大したり、場合によっては血管が「中心窩」を横切ったりして「黄斑部」を覆っていること(凹みがない平らな状態になってしまうこと)が多いので、眼球内に入った光が錐体へと届きにくい状態となり、効率よく視神経への情報伝達ができないのです。
このように、アルビノの人は、「黄斑部」がうまく作れないために、視力が低下し、ロービジョン(弱視)になります。構造上の問題が原因ですから、眼鏡やコンタクトによる矯正では、多少の改善はあったとしても、見える人と同じようにはなりません。

          図3 眼球の仕組み

では、低視力といっても、アルビノの人はどのくらい見えているのでしょうか? 当団体の経験則ですが、視力値はおおよそ0.05から0.5の範囲で、かなりの個人差が認められますが、0.2程度の方が多いようです。そこで、ここからは、視力とは何か? また、それぞれの視力値に応じた見え方についても解説します。
視力は、その人がどれだけ細かいものを見分けられるかの程度を小数等の数値で表現したものです。この数値は、網膜に映るイメージの大きさを角度で表現したもの(視角)[しかく]に基づいて算出されています。視距離が同じだった場合、視力が高い人は、小さなイメージであっても対象に気づけますが、視力が低い人は大きなイメージを映さないと対象を認識できません。網膜上のイメージを大きくするには、その人が対象に近づくか、対象自体を大きくしてもらうことが必要になります。実際、アルビノの人は、見える人よりも極端にTVに近づいて見ますし、スマホやタブレットの画面を拡大して見ます。これは網膜上のイメージを認識できる程度まで自ら拡大する工夫であり、とても自然な適応行動です。見える人からすると、特異な行動に思えるかもしれませんが、極端に近いからといって「もっと離れてみなさい」と指摘しないでください。対象を全く見えなくなってしまう恐れがあります。。
続いて、それぞれの視力値で、どのくらいの大きさの文字が見えるのかを説明します。まず、以下の表をご覧ください。これにはアルファベットの「C」の文字に似た視力検査指標(ランドルト環)の切れ目幅をまとめています。眼科では、5mの距離(遠方の見え方)を測定しますが、教育現場では30cmの距離(近見の見え方)も測定し、本や教科書を読むときの文字サイズがどの程度がよいかを検討しますので、それぞれに対応した値を表示しています。

表 ランドルト環の切れ目幅

この表からわかることは、例えば、0.1の視力値の方は、5mの距離であれば、その距離で1.5cm幅の線に気づけるということ、また、30cmの距離であれば、0.9mm幅の線に気づけるということです。みなさんも、それぞれの視力に対応した切れ目幅を、ご確認ください。
それぞれの視力値の方が、読めるであろう文字のサイズの選定方法について簡易的なものを紹介させていただきます。ここでは、「ランドルト環の切れ目=その距離で見える線の太さ」という考え方を用い、「書」の漢字のサイズについて理論的に推定します。「書」は、黒い横線の数は8本あります。その間には、これと同じ幅の透明な横線が9本存在しますので、実際には、17本の横線(縞々)があることになります(図4)。「書」という漢字は、ランドルト環の切れ目幅に相当する線が17本積みあがっているのだから、その高さに相当するサイズであれば、無理なく読めるということになります。この考え方に基づき、理論上は、画数の多い漢字は、ランドルト環の切れ目幅の17倍、ひらがなは7倍の高さを、読める文字サイズとして推定します。その高さがわかれば、文字サイズの一覧表を参考に、該当する文字を探せば、ポイントサイズ(pt)がどの程度必要になるのかも判断できます。

     図4 簡易的に文字サイズを推定する考え方

例えば、視力値が0.2の方を想定します。30cmの距離では、ほぼ20ポイントの漢字が認識できます。顏を半分の距離(15cm)まで近づけると、網膜上のイメージは単純に倍の大きさになります。そうなると、プリントの漢字の大きさは、一般的な文字サイズ(10.5ポイント)でも読めるということになります。
このように書くと、0.2程度の視力値の人が多いアルビノの方は、あまり困らないのではと誤解される方もいらっしゃるかもしれません。確かに、中には、大人になるまで視覚補助具等(単眼鏡、拡大鏡等)を使わず、困っていないというケースもあるようです。しかし、アルビノの方の見え方は、視力だけではなく、他の症状(まぶしさ・眼球振とう)の影響を受けます。0.2の視力があっても、まぶしい状況ではそれだけのパフォーマンスが発揮できないことだってあります。「アルビノの人の見えにくさ≠健常者の見えにくさ」であることを忘れないようにしましょう。
なお、ここでは視力値に対応した文字サイズの簡易的な推定方法を紹介してきましたが、より正確に文字サイズを判断するためには、そのお子さんが教科書を読む様子を観察することや、MNREADというチャートを使った読書評価が不可欠です。特に、小学校では、学年(学年が上がると文字が小さくなる等)や教科特性(鍵盤ハーモニカを間に入れ、距離を取って教科書を読むケース等)も考慮しないといけません。こうした点は、視覚特別支援学校、大学の教育相談、ロービジョン外来を持つ眼科等の専門機関と相談してください。

(3)眼球振とう
アルビノの場合、眼球振とうは横揺れになります。両手で本を持ち、左右に揺らすとうまく読めなくなりますが、そのような見え方です。
例えば、定規を横置きで使うと、バーコードのように太い線と細い線があり、それが揺れているように見えてしまう方がいます。これではうまく線がひけませんし、長さを測ることができません。横揺れが起きてもメモリがわかるように、定規を縦置きで使うと、眼球振とうの影響がなく、学習ができる場合もあります。
また、縦書きの文章は読みにくく、何度も同じ行を読んでしまうことがあります。そのようなときは、読んだ行に定規を当てる等の工夫をすることで、繰り返しを避けることができます。
ロービジョンの方は、先天的にこうした眼球振とうがある場合が多いようです。メカニズムの詳細まではわかっていませんが、疲れがたまるとひどくなるという方、過度に緊張しているとひどくなるという方、頑張ってみようと集中しているとひどくなるという方がいます。何よりも、疲れを感じずに見るには、不快にならない明るさ、無理のない姿勢、適度な休憩が重要です。それから、眼球振とうがひどい状態の時は、無理に学習や仕事をしても、効率が悪いだけなので、しっかり休むということが大切です。

参考文献
相羽大輔・矢吹康夫(2013)当事者団体によるアルビノの支援活動―子育て支援と社会への理解啓発を中心に―.弱視教育,51(2),20-25.
石井更幸(編)(2017) アルビノの話をしよう. 解放出版.
香川邦生・千田耕基 (編) (2009) 小・中学校における視力の弱い子どもの学習支援. 教育出版.
氏間和仁(2012)見えにくい子どもへのサポートQ&A. 読書工房